木桶仕込みの味噌 加藤兵太郎商店さんにお邪魔しました。 - めりはり食選び        
instagram
facebook

嘉永3年(1850年)創業 「いいちみそ」で有名な加藤兵太郎商店さんにお邪魔しました。

加藤兵太郎商店さんHP
https://iichimiso.com/

「高くて当然」は怠慢。

『「手作りだから」「木桶だから」高くて当然というのは怠慢。』

「もちろん、手作りで人の手や管理に費やす労力が多いほど、コストに反映してくる。ただ、だからと言って手に取りやすい価格にするための工夫をやめるのは違う。」

強い意志とストイックさを感じさせる7代目 加藤篤社長の言葉に、序盤から一気に引き込まれた。

老舗を支える蔵と技

加藤兵太郎商店さんの味噌は、大豆を圧力容器で蒸しあげる。
米味噌は大豆を「煮る」ことも多い。煮ることで煮汁に栄養分や旨味が流れてしまう一方、色の綺麗な味噌を作ることができる。
大豆を蒸して作った味噌は色がくすむが、栄養や旨味がとどまり、伝統の味を支えている。

「神奈川最古」と業者さんに言われる圧力容器
大豆を蒸す工程では、10秒単位で味の良し悪しが決まる真剣勝負。
その日の大豆の水分量や状態を見極めながら、一番気を遣う工程だそう。
数カ月かけてじっくり仕込む味噌づくりに、秒を争う場面があることに驚いた。
木桶を移動させる為のレールがなんと味噌蔵内に。
「フォークリフトではなく、レールで移動させるのは恐らく日本でもうちだけ。
時々脱線するけどね(笑)」

老舗のテコ入れ

「親が苦労している姿を見てきたから、家業は継ぎたくなかった。」
一度は別の仕事をし、父に頼まれ最終的に家業を継いだ加藤社長。
家に戻り、良くも悪くもよそ者の目で自分たちの味噌づくりを俯瞰した時に、改善しなければならないと思う箇所だらけだったという。

「生産性の悪いやり方を変えなければ、生き残れない!」

けれども、外から帰ってきた最年少の自分が、現場で長く働くベテラン社員にこうした方がいいと言ってもなかなか取り合ってもらえなかった。
泣いてお願いしたこともあったそう。
「そこでやっと『こいつ本気なんだ』ってことが伝わったみたいで。」
味噌の味の要となる部分はしっかり守りながらも、慣習だからという理由で行っていた業務を徹底的に見直し効率化したことで、以前より製造にかかる時間を削減することができた。

おしゃれだと評判の高いパッケージ。
昔のデザインから刷新する際は社内から猛反対があったそう。

選択すること

蔵を案内してもらう中で、全ての工程に「何故これでなくてはだめなのか」という明確な理由をセットで説明してくれた加藤社長。

選択しているかが大事」
という言葉がとても印象的だった。

「『今までこれでやってきたから』とか『うちはそこはどうでもいいと思ってる』が一番いけない。もちろんどれが正解ってない。地域や蔵で味が全然違う、それが味噌だから。だけどそのオリジナリティの所以を語れないのであれば、老舗が自分たちの名前を残す意味がない」

流通への選択

例えば、味噌をどう広く売っていくか。

生の味噌は風味を最大限に楽しめるが、菌達が生きている状態だと流通時にパッケージが膨張し破裂してしまう可能性がある。
スーパーで流通させる為にはパッケージに弁を付けたり、冷蔵コーナーに置いたりする必要がある。それはすなわち、コストに直結する。

求めやすい価格で常温流通させる為に、味噌屋さんがとる方法は主に「火入れ」または「酒精の添加」の2パターン。

「火入れ」は菌と同時に酵素も失活する。味噌汁等で使うには問題ないが、味噌漬けなど酵素のパワーでおいしさを生み出す調理の場合は効果は薄れてしまう。
「酒精の添加」は添加物に区分される酒精を嫌う消費者もいる為悩ましいが、味噌の酵素の力も残せる。

麹作りが一番大変な作業

加藤兵太郎商店さんの味噌は酒精の添加を「選択」している。
「毎日に取り入れてもらいやすい価格を優先したい。その上で、酵素の働きが失われずどんな調理でも味噌の良さを享受できる。」

販売価格への想いは強いが、だからと言ってただただ安いだけの味噌を作りたいのではない。一時外国産を使っていた大豆は、安全面を考慮し社長の代で全て国産に切り替えた。

随所に「ここは譲れない」という熱い想いがこもった味噌は、それだけで選びたくなる説得力がある。

味噌業界で生きること。

味噌業界は縮小の一途をたどっており、業界全体の規模は約1500~1800億円と言われている。
それを大手味噌メーカー含めた全国の味噌屋が奪いあっている。

一方で、マルシェ等に出店すると、隣のパン屋さんのパンが飛ぶように売れていく。
家族連れの客たちは迷うことなく今日明日食べる為の1000円分ほどのパンを次々と買っていく。小さな工房で今日焼いたパンを並べ、颯爽と売り切るパン屋さん。

かたや、時間をかけてじっくり仕込んだ味噌。
木桶や機械を手入れし、数カ月かけてみんなで仕込んだ味噌は、1つ買えば家族で1カ月ほど使えるものなのに、数百円。それでも味噌はなかなか売れない。
「正直、(パン屋さんを)羨ましいなと思う。」

家業を継ぐ。
自分で選んだものではない、重いのれんを引き受ける。
のれんを背負って見えてきた景色は、思っていたよりも険しいものだった。
それでも次の一手を考え続ける。
シェアを取り合うのではなく、味噌の可能性をもっと広げていきたい、と社長は話してくれた。

生命線だというトムセット

社長からママたちへ

健康への注目が高まる昨今、食を整えることはますます大切になってくる。
一方で、親がこだわりすぎて食事を楽しめないのであれば、その雰囲気は子供達に必ず伝わってしまう。
無理がなく、自分の感覚でやりやすいことから。
味噌汁を取り入れることもその一つ。
味噌は土地や店で味のバラエティが豊富。
自分の好みの味を見つけて、楽しんでほしい。

最後に

今回の加藤社長へのインタビューを通して、私自身、見えてきたものがある。

どんな食べ物を選ぶか。そこにはひとそれぞれの大切な価値観が詰まっていて、万人に通用する正解はない。
では一体自分は何を伝えたいんだろう。

「理由を持って選択する。」
社長の言葉に、これまで探していた食選びの普遍的な答えを見つけた気がした。

食べるものに対して「なんとなく」ではなく「理由」を持つこと。
これは作り手・消費者共に、大切にすべきことだと思う。
そのためにも、食品の持つ背景・本質をきちんと知らなければならない。
納得の選択の手助けとなる情報発信を、私はしていきたい。
改めてそう思った。

知って選べば、どれも正解!
今日も楽しい食選びを!

この記事は2022年7月の訪問時の記事を書き写したものです。

ABOUT US この記事を書いた人

フードセレクトアドバイザー 青木めぐみ

保有資格:食学調味料アドバイザー・ホールフードジュニアマイスター・発酵ライフアドバイザー等フードシナプス 代表

娘のアレルギーをきっかけに食の大切さに気付き、一念発起。
体を作る食べ物、どう選ぶ?
作り手さんを直接訪ねながら、心も体も大切にしたいママ向けに「笑顔の80点合格!
めりはり食選び」を提案している。